昨今の社会情勢(国・和歌山県内での地方行政)を踏まえて、和歌山県で活動している4団体による意見表明を行います。
「泥饅頭は、毒饅頭になってしまったのか」
6月16日(金)、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」が成立し、翌週6月23日(金)から施行された。
この法律の中味は、性的マイノリティ当事者(以下当事者の称する)が年来渇望をしていた内容とはほど遠いものとなって、世に現れたと言っても過言ではないとの思いから、この声明文を発表することを決意した。
当事者が望んでいた法律の内容は、日本の社会の中で、日本国憲法が保障している基本的人権の主体として日常生活をおくれるように、当事者に対する一切の偏見や差別を排除するものであった。当事者は、2016年、野党は共党して「性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等の推進に関する法律案」を第190回通常国会に共同提出したとき、美味しいお饅頭を食べられるようになるのではという希望を持った。しかし、その後、策定された超党派の議員案は「差別解消法」ではなく「理解増進法」となった。それでも、その条文に「性的指向又は性自認を理由とした差別は許されないものである」との文言があり、それなりに味わえる饅頭になったように思えた。ところが、この饅頭は世に出ることなく、製造中止になってしまった。そして、今年第211回通常国会の時に、自民党が提示した法案は、名称の一部を変え、「不当な差別はあってはならない」という変更が加えられ、当事者の願いから大きく後退するものとなった。
もう味わえる饅頭ではなくなった。泥饅頭のようになってしまったのだ。だが、泥の中にも栄養はあると思えば、食べられなくもないとの思いもあった。
しかし、その後、一部の野党が提出した修正案には、「この法律が定める設置の実施等に当たっては、性的指向及びジェンダーアイデンティティにかかわらず、すべての国民が安心して生活できることとなるように、留意するものとする。この場合において、政府は、その運用に必要な指針を策定するものとする。」との第12条が追加された。
この条文の「全ての国民が安心して生活できる」という文言は、社会的多数派に向けられた配慮ではないのかという大きな不安を、当事者は抱くのである。
この法案を作成した党派は、だれの権利擁護のための法律を作ろうとしたのか、当事者の権利を制限されるのではないのか、などという不安が渦巻き、恐怖心さえおこるのを覚える。
この条文は、当事者の自分らしい生き方が、自らの存在すらが、多数派の安心した生活を脅かす存在だと暗示されているようにさえ思え、社会に迷惑をかけない生き方を選ばされるのかという思いさえ持ってしまう。
また、この条文が加えられた背景には、性自認を女性と表明する者が、いわゆる「女性スペース」を奪い、女性の安心を脅かす存在、女性への性暴力の加害者ともなりうるとの流布がある。
しかし、このような言説は、本来手を携えて、平等な社会を創っていく関係にある性的マイノリティの立場のトランス女性とジェンダーギャップ指数125位の日本において社会的マイノリティの立場の女性を、文壇してしまうことになるのではないかという不案を持つのである。
さらに、もう一つ、大きく変更された箇所は、学校教育に関わる第6条2項である。それまでのいずれの法案にもない「家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつ」という文言が突如として出現していたのである。
家庭や地域の協力を得なければ、性の多様性の理解増進の教育ができないとも取れるようなこの文言はどのような勢力によって提示され、その意図は何なのかという疑念とともに、この文言がs、これまで先進的に取り組んで来た学校への圧力、教育への介入となることに不安を抱くのである。
泥饅頭は毒饅頭になってしまったのか!そのような絶望感さえ覚えるのである。
当事者が安ところで、これまでの法において、例えば憲法第14条の「すべて国民は、法の下に平等であって、」また第18条の「何人も、いかなる奴隷的束縛を受けない。」そして、この法律の第3条の基本理念の「全ての国民が、その性的指向及びジェンダーアイデンティティにかかわらず、等しく基本的人権を享有し」などのように、そこにある「全ての国民」「何人も」「全ての国民」という文言は、いわゆる社会的多数派の権利は言うに及ばず、社会的マイノリティの権利の擁護や保障を特に意識したものであるのは自明のことである。
今回成立した第12条の「全ての国民」の主眼とするところが、これまでの法と同じ趣旨でなければならない。心して生活ができることを意図した文言であらねばならないのだ。
そして、この法律は「LGBTQの理解増進法」と略称で呼ばれているが、決して性的マイノリティについてのみ理解を増進させようというのではなく、すべての人に関わることとして、性の多様性を理解することに努める事を求めているという認識に立つことがこの法律の趣旨であると考える。
もし、多数派の安心のために、当事者の権利が制限されることがあれば、「多様性の理解」が行き渡っていないためと受け取り、学校教育を始めさまざま場で、教育と啓発により、理解の増進に努めなければならないととらえるべきである。
法律が制定された現状であっても、もちろん美味しいお饅頭を食べたいとの思いは消えることはない。
当事者に不安や恐怖心を抱かせない「法律」となるように、修正を強く求めるのは当然のことである。
しかし、少数者は、これまでも、毒饅頭をあえて食らっても、毒を薬とするぐらいの逞しさを持って生き続けてきた。
この思いをもって、この法律によるさまざまな施策が、その基本理念である「全ての国民が、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人と尊重される」社会の実現をめざすものにしていくように、不断の努力をおこない、全力を尽くすことを、ここに決意するものである。
2023年7月7日(金)
特定非営利活動法人 チーム紀伊水道
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